お裁縫

京都・松原

有限会社みすや忠兵衛さん

1819年(文政2年)創業、
京の着倒れを支えた伝統針

株式会社青鴉さんは京都で伝統の「みすや針」を製造・販売するメーカーです。
約210年前に初代が丹波より上京し、みすや針職人の山田権兵衛に弟子入りして10年間の修行の後、暖簾分けの形で独立したのが始まりで、現在は7代目を数えます。
京都は着倒れのまちと言われますが、この着倒れ文化を影で支えてきたもののひとつがみすや針です。

きらびやかな貴族の衣装から庶民の晴れ着、普段着まで衣類のほとんどがこの針で作られてきました。京都のひとびとは西陣織や友禅染といった京都ならではの上質素材を使い、晴れの日の着物を仕立てる。
縫い人は、纏う姿に想いを馳せながら、ひと針ひと針縫い上げる。ここには、日々の生活を 質素に押さえてまで衣装に財を費やす京都の美意識があります。みすや針はそうした美意識に応える針でなければなりませんでした。

それは縫い人の負担を少しでも軽減し、縫いやすい針であること、折れたり曲がることの少ない丈夫な 針であること、そして素材を傷めない針であること、素材の良さ(光沢、柄、張り)を引き出す縫いを 行えることでした。このどれかひとつでも欠けてしまうと、縫い人の想いを汚し、纏い人の晴れ姿を 台無しにしてしまうのです。細い一本の針とはいえ、こうした気構えで忠兵衛号のみすや針を作ってきました。

江戸時代から続く秘伝製法

針の素材は鋼。この強固な素材の縫い針は、堅いばかりでは役にたちません。縫うときの針の運びにしなやかな弾性が要求されます。
そしてしなやかさの中にも腰の強さがなければなりません。もちろんすぐ折れたり、曲がるようでは縫いにくい針となってしまいます。 堅いということはもろい欠点をもち、しなやかということは曲がる欠点をもっています。ひとつのものに、正反対の性質を兼ね備えるということはとても大きな問題です。
この難題を解決する方法を焼入れ法に見出し、今日まで続く伝統針となりました。堅さとねばり、いぶし銀の重厚な輝きが、忠兵衛のみすや針といえます。

次のこだわりは針穴。
みすや針の針穴は、極限まで正円に近づけています。細い鋼の胴体にどれだけ大きな穴を開けることができるか、これも針職人の腕の見せどころです。そしてこの小さな針穴の内側まできれいに磨きあげ、滑らかなまん丸のフォルムに仕上げます。 針穴が大きいほど糸は通りやすい。
そして丸いフォルムは糸通しのときの糸先の割れを防ぎます。また針穴が丸いということ は、糸の太さと均一になることですから、糸遊びが起こらず、針仕事の途中で糸がよじれることもありません。針穴と糸がぎり ぎりに接していますが、内側を滑らかに磨くことで糸切れを防いでいます。

また、針づくりの製作では、表面を磨きあげる仕上げ作業があります。現在一般的な磨きは横磨きですが、みすや針は縦磨きで仕上げてあります。横磨きならば、ローラーで効率よく磨くことができますが、針入れの方向に対して直角に磨くことになりますか ら、生地の抵抗を生む磨き方といえます。
一方、縦磨きを施すと針入れの向きと同じ方向に肉眼では見えない繊細な縦筋が入ります。実はこの微細な縦筋がガイドとなって、生地の進みがよくなるように仕上げられているのです。この磨きは肉眼で見える ほど荒くてはだめ。生地を痛めるような均一感のない磨きでもだめ。まん丸の胴体が変形しないよう、均一に0.00ミリ単位で磨きあげなければなりません。
ぐっと息を止めて、まっすぐ一定の力加減で磨きあげ、いぶし銀の照りを出す。磨き作業は、熟 練の針職人でも呼吸ひとつ緊張する作業なのです。

減っていく、
みすや針をとりまくものごと、それでも

着物を着る機会が減った現在、針やハサミ、生地(ちりめん・西陣織)など、職人さんの数の減少、針しごとをする人ももまた少なくなってきています。それでも、長年みすや針を愛用する人々に支えられ、新しい商品開発にもチャレンジし、伝統のみすや針の良さを幅広い年代の人々に伝え、手づくりを慈しむお客様に確かな逸品を届ける気持ちで、日々取り組んでいます。

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shirotamaは、株式会社ロングスとコイズミデザインファクトリーが協同して行っているプロジェクトです。

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